不動産相続 路線価が認められない?
2022年4月、注目の最高裁判決がありました。
そのことを報じた新聞各紙には、『相続マンション 路線価認めず課税「適法」』、『過度な節税に「伝家の宝刀」』などという見出しが踊りました。
裁判では、相続したマンションで路線価に基づいた相続人による不動産評価額が低すぎるなどとして課税した国税当局の処分の妥当性が争われました。
1.最高裁は「路線価」に基づく不動産評価を否定
裁判の経緯は、次のとおりです。
相続人(納税者)は2012年、94歳で亡くなった父親からマンション2棟(購入額計13億8700万円)を相続し、路線価を基に、評価額を約3億3000万円と算定しました。そのうえで、マンション購入時の銀行からの借り入れと相殺して、相続税を0円と申告しました。
これに対し、国税当局は、不動産鑑定評価を基に、評価額を約12億7300万円と算定し直し、約3億円を追徴課税する処分を下しました。
相続人側は、この課税処分の取り消しを求めて訴訟を起こしました。
最高裁は、国税当局の処分を適法とし、相続人側の主張を退けました。
裁判の判決において、最高裁は、路線価による画一的な評価に租税負担の公平に反する事情があるとして、「路線価に基づく算定額が著しく不適当な場合は、国税当局が独自に再評価できる」とする、相続税法の例外規定の適用を認めました。
相続法では、不動産の相続税について、土地の「時価」に基づく算定を求めています。国税庁は、その算定基準の一つとして「路線価」を示しています。
「路線価」とは、市街地の道路(路線)に面する土地1平方メートル当たりの標準価格をいいます。路線価は、毎年1月1日を評価時点として、国税庁が、不動産鑑定士による鑑定評価価格や売買実例価格などを参考にし、国土交通省が公表する公示地価の8割程度を目安として算出・評価します。
このたびの判決では、原則としての路線価に基づいた評価方法(いわゆる「路線価方式」)が適当ではないと判断され、例外としての国税当局独自の評価方法が適用された、ということになります。
2.背景には、路線価の評価額が安いことにつけ込んだ「マンション節税」が
このたびの最高裁判決の背景には、路線価に基づいた相続税評価額と実勢価格との差を用いた税金対策があります。その最たるものが「マンション節税」であり、都心部のタワーマンションを活用した税金対策、いわゆる「タワマン節税」が知られています。タワーマンションの相続税評価額は、実勢価格との開きがとりわけ大きくなります。2015年の富裕層への相続税増税を機に、タワマン節税は注目を集めました。
不動産を活用した節税自体は、違法ではなく、一般的に行われています。
ただし、国税当局は、課税の公平性の観点から、タワーマンションなどの不動産を利用した過度な節税(節税目的の行為としてやり過ぎな手法)に対しては問題視してきました。最高裁判決は、こうした節税手法に警鐘を鳴らす司法判断といえます。
裁判所は、相続対策を行わない納税者や、適度な節税により相続税を納めている人と、過度な節税手法を用いて相続税の支払いを極度に抑えている人とを公平には扱えない(租税負担の公平に反する)点を重く見ました。
3.今後、節税目的の不動産購入には注意が必要
このたびの最高裁判決を受け、タワマン節税などの行き過ぎた節税手法は今後、一定の歯止めがかけられるものと考えられます。極端な相続税対策は、軽減効果はあるものの、その分リスクが高くなります。
最高裁判決では、相続税法の例外規定の適用について明確な基準が示されませんでした。このため、どこまでの相続対策が許容されるのか、また、どこからが過度な相続対策と判断されるのかについては、明らかではありません。
そもそも、例外規定は、あくまでも「例外」という位置づけです。関係者の間で「伝家の宝刀」と呼ばれているのも、めったに使われないためです。
とはいえ、国家最高の司法機関がこのような判決を下した以上、不動産相続では今後、裁判において国税当局が用いたような、相続税の算定方法(例外規定)が適用されやすくなると考えられます。これまで以上に、実勢価格が重視される傾向になるでしょう。これによって、近い将来、相続が発生する高齢者が、金額の低くない不動産を取得する際には、注意が必要となります。
また、これからの不動産を活用した相続対策では、不動産を、
- 不動産オーナーやその親族が居住するために利用する、または
- 利回りや収支などを十分に考慮したうえで長期的な不動産経営に活用する
といった、相続税の軽減以外の明確な目的があることが望ましいでしょう。
いずれにしても、不動産を活用した相続対策は、今まで以上に慎重に進めていく必要があります。今後、節税を目的とした不動産マーケットは縮小していく可能性もあります。